私は天使なんかじゃない
隠滅と解決
望む結末。
想像していた答え。
誰もが納得する大団円。
それらを与えられれば、人は喜んで真実と認識するのだろうか。
聖なる光修道院絡みの一件、完全終了。
全てを操っていたのはクロムウェル贖罪神父で、聖なる光修道院、チルドレン・アトムの双方を掌の上で転がしていたことが判明。
聖なる光修道院のマザー・キュリー三世は死亡。
アトム教のマザー・マヤは現在逃亡中。
俺の推測通り少し遅れてやって来たアカハナの部隊が燃える修道院を取り巻いていた信者たちを一掃、修道院は建物の骨組みだけを残して焼け落ちた。
贖罪神父の安否不明。
確認?
できんな。
あのおっさん爆弾を三階に設置してたっぽい。贖罪神父曰くこのフロアは吹き飛ぶとか何とか。
まだ吹き飛んだ様子はない。
立ち上がってないようだ。
ともかく。
ともかく問題が一つ片付いた。
そして事態は一気に加速する。まるでだれも予想しない速さで。
メガトン。ゴブ&ノヴァの店。
聖なる光修道院の一件から3日後。
常連の爺ズはいなくなり街は色々な災難で今はてんてこ舞い。
店は閑古鳥。
俺は壁にもたれ掛って用心棒をし、トロイは床掃除をし、ベンジーは市長の手伝いで警備のバイト、アッシュとモニカさんはレギュレーターに戻った。多分街にいる、たぶんな。
そして……。
「もっと愛想笑いして」
「こう?ニマァー」
「可愛らしく」
「こう?ニタァー」
レディ・スコルピオンはノヴァ姉さんに接客の練習中。
俺の用心棒ってそういうこと?
……。
……何か違う気がする。
ま、まあ、平和時はこんなもんか。ギャング団の俺らも平時はこんなもんだしな。
ただ市長はあれから忙しいようだ。門が吹き飛んだから直す……のは当然ながら資材の確保の段階から始めなきゃだからな、今のところ門の修復用の資材の目処は立っていないようだ。
修道院は燃え残っているとはいえ残骸で証拠は消えた。
その周りにあった信者の宿泊用の建物は残っているが目ぼしいものはないようだ。
結局グール化の水の行方は謎。
小学校は、まあ、立ち入り禁止になってる。
何故?
爆発物が満載だからな。
神父はまだ自爆した形跡はない。さすがに散会吹き飛べばメガトンでも分かる。監視台の保安官助手は市長の命令で小学校の方角を監視している。
まあ、状況証拠はかなりある。
どちらにしても戦前ではなく今は戦後。聖なる光修道院が組織として粉砕している以上、別に証拠探しは特に問題ではないようだ。
悪党は潰えた。
それで充分ってわけだ。
「トロイ、お前さん一息入れて飯でも食っていいよ」
「はい、オーナー」
「ほら」
「わー。ハンバーガーだっ!キャッホー」
正式メニューになったハンバーガー。
パンに挟まったバラモンステーキ、スペシャルソースが絶品です。
「兄貴、お先に失礼します」
「おう。ゆっくり食えよ」
どうせ客いないし。
あれから特に何もない。
酒場で睨みを利かせ、お行儀のよくない酔客に人生を教え、賄い食って、トロイやベンジー、スコルピオンと酒飲んで一日が終わる。
……。
……昨日までは、な。
「よお兄貴っ!」
ぞろぞろと5人の手下を引き連れて来客。
スプリング・ジャック。
俺様の三番目の子分だ。
一番目がトロイ、二番目がベンジー、三番目がスプリング・ジャックってわけだ。
「トロイの兄貴もご機嫌いかがっすか? お前らも兄貴に挨拶しろよ」
『ちーす』
「ど、どうも」
トロイはもうちょっとワルになってもらわなきゃな。
トンネルスネーク最強っ!
「バーテンさんよ、ビールくれ、人数分」
「かしこまりました。シルバー、頼むよ」
「はい」
ゴブに注文するスプリング・ジャック。
シルバーが酒瓶とコップを人数分もってテーブルに並べた。各々手酌で飲み始める。スプリング・ジャックはご満悦だ。
「ご機嫌だな、スプリング・ジャック。何かあったのか?」
「ついに掴んだぜ、兄貴」
「掴んだ? 何の話だ?」
「約束したじゃねぇか」
「約束?」
「おいおい兄貴しっかりしてくれよ」
「悪いな。聖なる光修道院絡みでごたごたしてたんだ。で、何だっけ?」
「水の密売だよ」
「おおっ!」
忘れてた忘れてた。
グール化の水も問題だったがFEV入りの水も問題だ、スケールの違いを言うつもりはないが、後者の方がスケールがでかい。何とかしなきゃだぜ。
もちろん水の密輸とFEV入りがイコールするかは知らないが。
「ロックスルトってレイダーの野郎がいるんだ」
「そいつが犯人か?」
「いや。そいつは今じゃ堅気になってるよ。手下ともどもモールラットの養殖に力を入れてる。専属的に売買契約も結んだっだとさ。ワダンラーワンダラーワンダーミート、ってやつさ」
「はっ?」
何言っててんだ、こいつ?(汗)
「悪い言っている意味が分からん。契約? 何の話だ」
チンプンカンプンだぜ。
ゴブが助け舟を出す。
「GNRのコマーシャルだよ」
「コマーシャル」
それでも訳が分からない。
「モールラットってネズミ知ってるかい?」
「知らん」
「食肉になるんだが、何というか、消化が悪くてな、腹の中にごろごろと残るんだ。でキャピタルじゃモールラットの肉は腹の中でも動くって言うのさ。あんまり美味くないしここにもメニューはないよ」
「ふぅん」
「最近どっかの親父が斬新なメニューを作ったんだよ、それがワンダーミートだ。GNRでも大々的な宣伝してるし考案者も毎日コメントしてるよ。まあ、料理、と言うよりはジャーキーだな。試食を
BOSの助けを借りて各街に配っているようだけど、美味かった。素晴らしい味付けだった」
「へー」
ここのところ忙しくてゆっくりラジオも聴いてないからな。
知らなかったぜ。
BOSも手助け、要はキャピタルの食料事情の改善になると踏んでいるのだろう。
メガトン共同体はモントゴメリー郊外の貯水池近くにあった農場を食料生産の場として大々的にテコ入れしつつあるし世界は復興しつつある。
良いことだ。
「ところでトロイの兄貴が食ってるもの美味そうだな、兄貴、あれは何だ? 初めて見るけど……」
まあ、レアだろうな、ハンバーガーなんて。
「ハンバーガーだ」
「ハンバーガー?」
「バラモンステーキがパンってやつに挟まってる、ここの一押し料理さ」
「へー。ヤムヤムの宅配エッグを薄切りにして、ワンダーミートを挟んで食べても美味そうだな」
「それだっ!」
突然ゴブが叫ぶ。
おお?
グメルのゴブの目が光ってるぜ。
「バラモンステーキじゃ採算が取れないんだ、高くなっちまうからな。ワンダーミートか、それなら安価で抑えられるし美味い。あんた、そのネタ貰っていいかな? 今日はご馳走するよ」
「へへへ、お安い御用だ。兄貴、俺の頭脳はどうだ?」
「参謀格だな、トンネルスネークの」
「へへへっ!」
さて話を元に戻そう。
「それでスプリング・ジャック、ロックソルトが何だって?」
「そいつも別の奴に誘われたんだとよ、水の密売。リベットの連中から奪って売れば金になるってよ。もちろんあいつは堅気になってるから断った、だけど持ちかけた奴の居場所を知ってる」
「どこだ」
「アレフ居住地区にいるグールさ。名は知らないが」
「アレフ居住地区」
メガトン近くにある、メガトン共同体に属している街だ。
行ったことはないけど。
「よし、そこに……」
「待て待て兄貴、俺は出来る男だぜ?」
ビールを一口あおるスプリング・ジャック。
自慢げな顔だ。
「どういうことだ?」
「アレフまで行ったけど、確かにグールはいたが、グール違いだった。マーフィーっていう、グール向けにウルトラジェットを開発している麻薬組織の親玉さ。そいつが酒場で飲んでた」
「麻薬組織?」
胡散臭そうなのがいるな。
ゴブが説明してくれる。
「俺たちにはジェットが利かないし習慣性はない。マーフィーってのは聞いたことがあるな。俺たちグールにしてみたらジェットなんて遊びみたいなもんさ。俺は使わないけど」
「ふぅん」
「兄貴、話を続けるぜ。仲介人のグールは黒人、白人、それと同じ顔の連中を連れてどっかにいなくなったらしい。一足違いってやつだ」
「同じ顔の連中? 何だそれ」
「分かんねぇ。マーフィーはそう言ってた。5人ぐらい同じ顔のおっさんがいたとさ。5つ子か?」
「あー」
アンドロイドか。
そう考えたら何となく分かる。
でも黒人と白人って誰だ?
ざっくり過ぎる。
「そいつらの行き先は?」
「マーフィーが仲介人を知ってた。グラートギャングの一員だ」
「グラートギャング?」
「犯罪組織さ。殺しから密売まで何でもする、金になることには何でも飛びつくグールの組織だよ。俺らみたく信念も何もない拝金主義者さ。そいつらはジプシー村を拠点にしてる。すげぇだろ、兄貴?」
「最高だぜ、兄弟っ!」
「ははは」
心底嬉しそうに笑った。
ジプシー村、か。
「ゴブ、もしかして知ってるか?」
「詳しくは知らないがグールの村があるのは知っている。攻撃的な奴ららしい」
「攻撃的、ね」
「大半のグールはアンダーワールドで平穏を求めた。残りはロイ・フィリップスって奴に従って反ヒューマン同盟に属してた。最近テンペニータワーで全滅した奴らだよ」
「なるほど」
ロイ何とかって誰だか知らんけど。
よし。
だいぶ情報が絞れてきたな。
後は行動だけだ。
後は……。
「浄水施設を修復したからジェファーソン記念館に帰ることにした。ベルチバードも迎えに来ることだし、今まで世話になった」
酒場に来訪したのはスクライブ・ビクスリー。
BOSから浄水施設の修復の為に派遣されてきた男。
ベルチバードが来るのか。
「ラッキー」
「ラッキー……んー、何の話だ?」
ついている時は絶好調についているらしい。
乗せてもらうとしよう。
空からの襲撃だっ!
キャピタル・ウェイスランド。北部、某所。
戦前からそびえ立つその建物は周囲を威圧していた。ここは生活圏とは程遠く依然として人間の勢力外の場所。
そこに最近移り住んできた者たち。
それはレッドアーミー、タロン社残党の部隊。
その一室。
「……」
その女性はベッドに座っている。
白衣のグールの女性。
部屋にはパソコン、テーブル、椅子、ベッド、トイレ、基本的な物しかない。物質にもはや何の興味がないグールの女性ではあるが、それ以上にここは辺境で物資の確保が
容易ではない、という意味でもあった。自然元々この施設にあった物を使うしかない、というわけだ。
ベッドには金髪のカツラが置かれている。
頭髪が抜け落ちる、それはグール化の一般的な減少。
極稀に毛髪を残した者がいるが、それはあくまで珍しいケースだ。
コンコン。
扉がノックされる。
女性は何気ない動作でカツラを被る。これは癖みたいなものだ。しかし扉は開かない。彼女の部屋の扉を開けれる権限がある者は1人だけ、開けないのであれば権限がない者、つまりはタロン社。
扉の外から声。
「あの、大佐が呼んでますが」
「気が乗らない」
女性はそう答えた。
気が滅入っている。今は会いたくはない。
メッセンジャーは粘らなかった。
「分かりました。それで……」
「まだ何か?」
扉の外の者、それはタロン社の残党。彼らはグールの女性に雇われている。それに対して大佐と呼ばれる者はタロン社関係ではない、その為タロン社は大佐を軽視はしていないが特に
敬ってもいない。そもそもの指揮系統が違うのだ。タロン社はグールの科学者に従い、レッドアーミーは大佐に従う、仲間というよりは同盟だった。
ただ、計画の進行上レッドアーミーはグールの女性に従う。もちろん大佐に優先的に従うわけだが。
「それで、何?」
「こんな辺境で部下が気が滅入っているので少し遊んできていいですか?人里の方で、へへへ、女抱いたりしたいので」
「お好きに」
「ありがとうございます、Dr……」
ウルトラスーパーマーケット。酒場。
ジェリコとクローバーの会話。
「あいつ戻らないじゃない」
「シドは死んだと見るべきか。脱落は早過ぎる。代わりの手駒を見つけなければ」
「そもそもあの脳タリン野郎はどこで見つけてきたのよ? 何だってあんたに従ってたの? 誰、あいつ? 昔の傭兵仲間か何か?」
「さあな」
「はっ?」
「ボルト87にいた時の、同室の奴だった、それだけだ」
5時間後。
キャピタル・ウェイストランド上空。
ベルチバードは空を舞う。
向かうべき場所はジプシー村。メガトンから遠く離れた、北西部にあるグールの村。グラートギャングと呼ばれるギャング団の巣窟らしい。
そしてそこの連中が水を買い漁っている。
無理言ってスクライブ・ビクスリーにベルチバードを借りた。
もちろん借りた、と言ってもうちのメンバーでは操縦できない。操縦しているのはBOSの隊員。階級はナイト。他の搭乗者たちはスクライブ・ピグスリーとともに陸路ジェファーソン記念館に
帰って行った。水の絡みということでこちらを重要視し、気が済むまでベルチバードを貸してくれるらしい。パイロット付きで。
感謝感謝だぜ。
搭乗しているのは俺、トロイ、ベンジー、レディ・スコルピオン、ED-E。
スプリング・ジャックたちはメガトンにいる。
さすがに乗れないし、あいつら飲み始めてて戦闘には使えなさそうだったしな。
「何だこれは」
「どうした?」
パイロットが呟く。
驚愕を込めて。
「下を見ろ」
「下」
コックピットにお邪魔して、眼下の光景を見てみる。
……。
……廃墟?
一体何だここは?
「ジプシー村までは遠いのかい?」
「この下がジプシー村だ」
「はっ?」
全滅してる?
「少なくとも地図ではそうなってる。旋回して着陸できる場所を探す」
「あ、ああ」
「衝撃に備えてくれ」
ベルチバードは降下していく。
どういうことだ?
どういうことだ?
どういうことだ?
一瞬場所を間違えただけかとも思ったがそうではないらしい。
誰かに先を越された?
でも誰に?
そして何だって全滅させる?
無事着陸。
後部ハッチが開く。
まずはベンジーが降りてベルチバードの周りを歩いて周辺の安全を確認、そして頷く。俺たちも降りた。降りる際にパイロットが声を掛けてきた。
「この状況だ、誰か1人警戒に残してくれ。俺だけじゃベルチバードを守備できない。襲撃されたら置いて帰っていいなら話は別だがね」
「そいつは困るな。レディ・スコルピオン、残ってくれ」
「はいよ、ボス」
「それと」
「何?」
「その髪は何とかならんのか? 赤なのか金なのかはっきりして欲しいんだけどよ」
「髪の色の自由はないってわけ?」
「そうじゃないが似合ってない」
「そりゃどうも。赤が地毛だよ。今度は染めないようにするよ」
「気に障ったなら悪い」
「別にいい」
ベンジーが一言呟く。デリカシー覚えろと。
悪かったな。
「トロイ、ED-Eに村を探索させてくれ」
「分かりました。さあ、お願い」
「<Beep>」
ED-Eは飛んでいく。
手分けして探したほうがよさそうだ。とはいえ散開するだけの人数はいない。その点ED-Eなら単独でも問題ないだろ。火力だけ見たら最強だしな、俺たちの中で。
「行こう」
「了解」
「はい」
俺たち3人は村を進む。
目ぼしいもの?
特にない。
歩けど歩けど同じ光景だ。崩壊した建物、グールの死体、死体、死体。何があったんだ、ここで。近くの建物の中を見てみる。山積みになったアクアピューラ。FEV入りかは謎だ。とはいえ飲め
るかどうかの調査はしない方がいいんだろうな、最終的には。BOSにこの件を委ねるにしても、水は危ない。破棄した方がよさそうだ。
「ボス、こいつら水の密輸やってたんだよな?」
「密輸というか悪党そそのかしてキャラバン襲わせて、その水を高値で買い取ってたらしい。FEVをどこで入れてたかは知らないが、買い取りはこいつらがしてた。それがどうした?」
「仲間割れか、これ?」
「かもな」
「もしくは状況的に不利になったから、無用の長物として切り捨てられたかだな。誰が黒幕かは知らないけどな」
「その線もありそうだな。トロイ」
「はい、兄貴」
「アンドロイドって強いのか?」
「アンドロイド、ですか?」
「ああ」
「耐久性は材質によりますね。だけど能力は高いですよ。例えば、ミスティさんなら同じ場所に何度も射撃できそうじゃないですか」
「実際できるだろうな。それが?」
「でも誤差がある。同じに見えても誤差は生じます。アンドロイドは機械的なんです。狙ったところを、寸分違わずに射抜ける。何度でも、何度でも。それが何か?」
「アレフからここに向かったアンドロイド持ちの奴が襲ったのかなってな」
ただ、そうなるとアンドロイドを仕切ってたらしい黒人と白人が誰かだな。アンドロイドは連邦製が普通のようだ、そしてアンドロイドがキャピタルにあるのはリベットだけ。
となるとリベットの誰かがここを襲ったのか?
だけど何の為に?
その時、ED-Eがこちらに飛んできた。まるで俺たちを呼ぶように音を鳴らし、そして付いて来いと言うかのように建物の中に消える。
俺たちも続く。
そこにはアンドロイドの複数の残骸と黒人の死体があった。
その黒人がリベットの元評議員パノンだと知ったのは、メガトンに帰ってからのことだった。
同刻。
ジャンクヤード。
かつてここは中立地帯だった。
武器組織のドゥコフが定めた中立地帯で、ここでのみ取引が行われた。敵対者の取引の邪魔をするには格好の場所、しかし邪魔をすればドゥコフが扱うロシア製武器が手に入ら
なくなる。悪党たちは、レイダー連合、奴隷商人、タロン社はここでは絶対に戦闘は起こさなかった。
そしてさわらぬ神に祟りなし、とばかりにキャラバン隊も旅人も近付かない。
それはドゥコフも悪党たちも根こそぎになった今も変わらない。
……。
……それを利用してここを拠点にしていた者以外は。
「何と手荒なことを」
現場の指揮を任されたBOSのクロスはため息交じりに呟いた。
BOSが展開した時には既に決していた。
中立地帯ということを利用して水にFEVを加えていた、テンペニータワーの残党は全滅していた。
テンペニータワーの残党と言ってもグールではなく、ヒューマン。
エンクレイブに蹴散らされた生き残りたち。
「ナイト、何か証拠は?」
「組織の首魁の名前が判明しました。チーフ・グスタホという男です。テンペニータワー時代はセキュリティ部隊の隊長だった男です。例にもれず死体、ですが」
「そうか」
テンペニータワーの大半は反グール主義者。
自分たちが追い払われた後はタワーにグールが移り住んだことにより、反グールの感情がさらに高まった。
FEVを混ぜたのはタワーのグールを殺すため。しかし量がなく、その為全てには混ぜなかった。混ぜれなかった。もちろん大半は水で殺せるし相手側は動揺する、その動揺を突いてグール
達を銃殺した。BOSの振りをしたのもグール達を油断させる為。本物のBOSに捕捉されたもののアンダーワールドにもFEV水を運んだのは全てのグールを憎むに至ったから。
ただ分からないのは……。
「何故COSを名乗ったのだ、こいつら」
それが分からない。
そしてCOSという単語はBOSの暗部のため外部の者は知りえない。
何故騙ったのか。
それが分からない。
「レギュレーターめ」
そう。
ここに来たBOSはあくまで第二陣。レギュレーターが奇襲した後にBOSに報告、急遽部隊を派遣した、という流れだ。
既に全滅している。
生存者なし。
交流はほとんどないが現在は同盟関係を結んでいるレギュレーター。
何故根絶やしにしたのか理解し難い。
生き証人がいない。
「何を考えてる、あの連中」
同刻。
要塞。エルダー・リオンズの部屋。
無線通信中。
繋がっている先は複数。
ジャンクヤードに飛んでいるクロスから、ジプシー村から緊急通信をしているナイト、そして……。
「私は犯人が分かった」
「それは本当かね、ソノラ」
ソノラ。
レギュレーターの統括者。
無線で要塞のエルダー・リオンズと交信している。
「ミスティの報告書に答えはあった。前の奴はへたれた、ミスティは大統領によってミュータント全滅の道具にされかかっていた、ライリー・レンジャーの無線を悪いが傍受させて
もらったが女科学者はグールだったそうね、そこから導き出される人物はただ一人」
「誰だね?」
「Dr.アンナ・ホルト」
それはエンクレイブに転んだ科学者の名前。
レイブンロックもろとも消し飛んだ女性。
「だが死んだはずだ」
「核爆発で吹き飛んだ、と報告書にあった。グール化して生き残っている可能性は否定できない」
「ふぅむ」
「前の奴はへたれた、それはFEVを混ぜるのを躊躇った、と考えるべきではないかと思う。それもただのFEVではない、エンクレイブが入植する為の強化型FEVだとしたら?」
「強化型……FEVに感染した者だけを殺すという……」
「ブッチ・デロリアが死ななかったのはその為ではないか、と考える。通常のではなく、改良型で量がなかったからテンペニータワーでは必要量の毒水を確保できなかったのではないか」
「当たり外れの意味は……」
「持っているFEVの量が少なかったから」
「となるとこの流れ、エンクレイブの入植準備の流れなのか?」
「しかしDr.アンナ・ホルトはタロン社、レッドアーミーを使ってタコマインダストリィの通常FEVを確保している。思惑はまだ謎だ。そもそもDr.マジソン・リーが疑ったDr.レスコの件、いささか
無理がある。わざわざ培養して戻す、という手間は考えにくい。戻るつもりもないのだから持ち出せばいのにそれをしなかった」
「だが全容はまだ分からない」
「確かに」
「何故ジャンクヤードをも根絶やしに?」
「悪党は生きるに値しない」
「生き証人……」
「我々のやり方ですのでどうぞお許しを。いずれにしてもまだ全容は確かに分からないですね。ジプシー村で死んでいたパノン、連邦製のハークネスにのアンドロイドの行方、Dr.レスコ、
暗躍しているジェリコ、何がどう繋がるのかまだ分からない。しかし流れで言えば収束宣言してもいいでしょう。アジトは潰せたのだから」
「……」
「ではこれで。通信終了」
ザー。
ノイズだけが響く。
確かに。
確かに拠点は潰せた。
しかし大雑把に終わっただけであり、根幹は残っている気がした。トカゲを連想した。尻尾だけを切って、全てが終わった気がしているだけではないのか。
「手玉に取られておるのぅ」
「Dr.ピンカートン、何かな?」
執務室にノックなしで入ってきたのは天才科学者Dr.ピンカートン。
BOSの階級は貰っていないが現在エルダー・リオンズの相談役という立場を得ている。
「煙に巻かれた感じかの」
「否定は出来んな」
「あのソノラという女性、全容を既に掴んでいるな」
「確かか?」
「その上で隠蔽しようとしている。完全解決にしようとしている。さてさて、何を企んでいるのかのぅ」